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くらす和晒 エッセイNo.1 「癒しを求めた、盛夏の夜。」

最寄りの駅からの帰り道。
いつもより足取りが重いのに気が付いた。
 
第二日曜日の夜。
就職してから毎月行われている同期会は、裕子と真由美と私の三人だけになった。

 

仕事は、私にとって、私を作る大切な一部。
ブランドが好きで、憧れていた海外コスメのアドバイザーとしてデビューして。
結婚し、出産を機に正社員から時短社員になって。
次男が中学入学する時期に正社員として復帰した。

女性の多い職種だから、穏やかに時間が過ぎて行ったとは言えない。
それでも、同期の仲間と過ごす、この月一回の集まりがあったから頑張れた。

そんな、同期との幸せな時間の後のこと。
心がほんの少し重たく感じて、いつもより歩くスピードも遅い気がした。

大学を機に独立した息子たちと単身赴任の夫がいない自宅で、数年前から一人暮らしのような部屋に帰る。

タイマーをセットしておいたエアコンのおかげで外気の蒸し暑さから解放される。

気持ちの重さを脱ぎ去るようにシャワーを浴びて、お気に入りの少し首周りのくたびれたTシャツと今年の母の日に次男がプレゼントしてくれたパンツを身に着けて。

そして、マンダリンスプレーを2プッシュほどリビングに。
ほっと出来る空間は私に癒しを与えてくれるのだ。

就職したころ、デパートの休業日は、たいてい月曜日で。
だから休みの前の日、飲みすぎても大丈夫なようにと第二日曜日の夜が同期会の日に決まった。
ファッションの話、恋の話、上司や部下の話。
最新のファッションの流行の話をそこで仕入れて、次の集まりまでにアップデートした自分を作り上げる。
息子たちのママ友とは味わえない高揚感は何事にも代えられない時間だった。
大輝くんのママ、翔くんのママではない、「私自身」として社会に向き合っている気がしていたのもあったのかもしれない。

それなのに。
二年ほど前からこの同期会を心から楽しめない自分がいる。

そんな話をしたからか、今年の母の日、次男が夜にふらりと私を訪ねてきて一本のパンツをプレゼントしてくれた。

「俺も気に入って履いてるんだけど、母さんも似合うと想って。」

長男は、私に似てプライドが高くブランド志向。
学校も就職先もその性格のまま誰もが知るところの企業に。

次男は、主人に似て大らかで「誰か、ではなく自分主義」
大学を出て美容師になりたいと美容学校に通い美容師になった。

そんな次男が、恥ずかしそうに手渡してくれたプレゼント。

「和晒のガーゼもんぺって言うんだって。オシャレなお客様が履いてたから思わずどこで買われたのか質問したら教えてくれてさ。」

それが、今、一番私をリラックスさせてくれるお気に入りのアイテム。

手に触れるとさらっとした触り心地。
気を付けてはいても気になるようになってきたお腹周りにも優しいゆったりしたデザイン。
ウエストは、ゴムと紐。
紐で調整できるのも何気に嬉しい。

もんぺと言えば、母の実家で祖母が田んぼに出るときに履いていたのを想い出す。

田植えの時期、母に連れられて祖父母に会いに行ったとき、緑の稲の苗の絨毯の中から小柄な人影。
薄い水色の小花の農園フードに水色の丸首の綿のブラウス。
もんぺとアームカバーはおそろいの柄で、えんじ色の桜模様。
私と母の顔を見て嬉しそうに微笑んでくれたあの日の祖母は、たぶん、今の私とそんなに歳は離れていない。

私は、ずっと綺麗なものや世の中でブランドと呼ばれる価値のわかるものが好きなんだと想う。

けれど。

自分が自分らしく、気持ちよく生きていく為のアイテムを持ちはじめるのも悪くない。

まずは、このリビングでの大切な癒しの時間から。

そして、来月あたり、次男の美容室に予約を入れて和晒のもんぺを使ったコーディネートを楽しんでみよう。

ラルフローレンの薄いブルーのシャツに、和柄ガーゼのベージュのストライプもんぺ。
足元は、裸足に白のコンバース。バッグはグッチのホースビットのミニバックで軽快に。

たぶん、次男も『お母さんらしい。似合ってるよ。』って言ってくれるはずだ。

そんなことを考えていたら、胸にあった胸の重みがいつの間にか消えていた。

 
 
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